" border="0">

吉野弘

c0054876_108383.jpg


今日の中日新聞の中日春秋に15日に亡くなった
吉野弘さんの事が書いてありました。
詩なぞ、ほとんど読まなくなって久しい我が家の中にも
吉野弘の詩集がありました。
探し出して読んでみると
高田渡が「夕焼け」ってのを歌って事を思い出しました
吉野さんの詩の中から私の気に入った何篇かを
掲載させていただきます。





「夕焼け」


いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりがすわった。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘はすわった。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
また立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘はすわった。
二度あることは と言うとおり
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
かわいそうに
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッとかんで
からだをこわばらせて――。
ぼくは電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持ち主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
なぜって
やさしい心の持ち主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇をかんで
つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。


<虹の足>  
 

雨があがって
雲間から
乾麺みたいに真直ぐな
陽差しがたくさん地上に刺さり
行手に榛名山が見えたころ
山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
・・・・・おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
乗客たちは頬を火照らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていくことが・・・・・。


<雪の日に> 
 

----誠実でありたい。
そんなねがいを
どこから手に入れた。

それは すでに
欺くことでしかないのに。

それが突然わかってしまった雪の
かなしみの上に 新しい雪がひたひたと
かさっている。

雪は一度 世界を包んでしまうと
そのあと 限りなく降り続けなければならない。
純白のあとからあとからかさねていかないと
雪のよごれをかくすことが出来ないのだ。

誠実が誠実を
どうしたら欺かないでいることが出来るか

それがもはや
誠実の手には負えなくなってしまったかの
ように
雪は今日も降っている。

雪の上に雪が
その上から雪が
たとえようのない重さで
ひたひたと かさねられてゆく。
かさなってゆく。


「素直な疑問符」


小鳥に声をかけてみた
小鳥は不思議そうに首をかしげた。

わからないから
わからないと
素直にかしげた
あれは
自然な、首のひねり
てらわない美しい疑問符のかたち。

時に
風の如く
耳もとで鳴る
意味不明な訪れに
私もまた
素直にかしぐ、小鳥の首でありたい。


「奈々子に」


赤い林檎の頬をして
眠っている奈々子。

お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
奈々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた。
お父さんにもちょっと酸っぱい思いがふえた。

唐突だが
奈々子
お父さんはお前に
多くを期待しないだろう。
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか。
お父さんははっきり
知ってしまったから。

お父さんが
お前にあげたいものは
健康と
自分を愛する心だ。

ひとが
ひとでなくなるのは
自分を愛することをやめるときだ。

自分を愛することをやめるとき
ひとは
他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう。

自分があるとき
他人があり
世界がある。

お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労がふえた。

苦労は
今は
お前にあげられない。

お前にあげたいものは
香りのよい健康と
かちとるにむづかしく
はぐくむにむづかしい
自分を愛する心だ。
by mr.bojangles | 2014-01-21 10:21 | 風景 | Comments(8)
Commented by 紅ちゃん at 2014-01-21 12:23 x
「奈々子に」は教科書に載ってました。
妹と同じ名前だっただったのよく覚えてますが
今改めて読んでみるととてもいい詩ですね。
Commented by bubu at 2014-01-21 15:39 x
「奈々子に」、胸がとても痛いです。

Commented by 大棟梁 at 2014-01-21 17:01 x
どれもすごくいい詩だと感じます。
こんな詞が書けたらtaguさんに曲つけてもらえるのになあ。
Commented by エンドウマメ at 2014-01-21 20:14 x
名前は聞いた事がありましたが、どんな詩人なのかは全く知りませんでした。
胸に響く詩・・・こう云う詩を書く人は、どんな方だったのでしょうね。
Commented by ichiichik at 2014-01-21 20:38
こんな詩が書けたらと思いますが
無理なことは始めからわかっていますので
思ているだけにします
Commented by toshi at 2014-01-21 21:47 x
以前の私は詩が好きでした。少年詩と言われるものです。
恵那の〇〇先生から、学んだことです。吉野弘さんや、川崎洋、茨城の
り子、石垣りんなどの詩を読んでいました。
「祝婚歌」は有名で「完璧でないほうがいい・・・」というくだりは好きす。
Commented by bubu at 2014-01-21 22:19 x
私は、高野悦子さんの「二十歳の原点」に書かれた
「旅に出よう」という詩がすきでした。
何度も読み返したことを覚えています。

そういえば「奈々子に」は教科書にありました。
学生の時は、深く読めず上っ面の字だけを追ってました。
今、出会うと深い詩だなあ~と思います。
「夕焼け」は朝日の天声人語に以前取り上げられてました。
娘さんは可愛そうすぎるし、としよりはあつかましすぎるし
腹がたちました。
娘さんも、もう立ち上がったままの方が楽なのに~と思ったものでした。
今、高田渡さんの曲聴いてきました。
切なかったです。
Commented by S.SHIN at 2014-01-22 00:07 x
「素直な疑問符」好きです!


青春の光も影もそのままに 時代が僕らを追い越していく そうさ黄昏にさ迷うとも それでいいのさ


by mr.bojangles

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

カテゴリ

全体
小屋百景
ぼくの細道
誰もいない駅
へなへな写真館
小さな生き物たち
路地
風景
カメラ
路上観察
めぐりあった歌たち
その他

針穴カメラ
端材木工

タグ

(499)
(137)
(101)
(73)
(50)
(36)
(35)
(28)
(21)
(15)
(11)
(10)
(8)
(8)
(7)
(7)
(5)
(3)
(2)
(1)

以前の記事

2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
2005年 02月

記事ランキング

画像一覧